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拡張移動サと和声(2)
移動サと機能和声
音度名唱「移動サ」の元であるインドの古典音楽は、機能和声を前提にしないから、機能和声を表記・表現することには関知しない。私の「拡張移動サ」そのものも、機能和声の構成に不適合な音階や旋法を歌うことに焦点を当てており、オクターヴを半音刻みで12分割することも前提ではないのだから、コード進行や和声法を写し取ろうということには熱意を持たない。
「移動サ」でも、一応は「長三和音」「短三和音」といった和音の種類分けを設定することができるが、特定の音律を前提としていないため、音律によっては、同じ「長三和音」と呼ばれる和音の中にも、幾種類もの響きの異なる和音が含まれることを当然のことと考える。そのため、結局は和音の種類分けそのものが殆ど意味を持たなくなる局面も想定している。
典型的な三和音
機能和声で用いられる、ディアトニック音階上で三度を2つ積み重ねた典型的な三和音は、下記の4種類である。5リミットの純正律を前提に、典型的な構成音を移動サ表記で挙げ、その場合の各音の振動数比を挙げた。
和音の種類 | 音程の構成 | 典型的な構成音 | 典型的な振動数比 |
長三和音 | 長三度+短三度 | 「サグパ」 | 4:5:6 |
短三和音 | 短三度+長三度 | 「サギパ」 | 10:12:15 |
増三和音 | 長三度+長三度 | 「ギパヌ」 | 16:20:25 |
減三和音 | 短三度+短三度(注) | 「ヌリマ」 | 45:54:64 |
純正な音程は、長三度は振動数比「4:5」、短三度は振動数比「5:6」である。
ほとんどの箇所はそうなっているのだが、(注)と記した減三和音だけは要注意である。なぜなら、ここの上の短三度だけ、27:32という不協和な振動数比になっているからである。純正の短三度を積み重ねるなら、減三和音の振動数比は「25:30:36」となるはずであるが、この表のように書いたのには、それなりの理由がある。
減三和音が使われるのは、ここに書いたように「ヌリマ」の形が最も多く、長音階でも短音階でも使われる。この「ヌ―リ」間と「リ―マ」間は、どちらも「全音1つ+半音1つ」であって、一見すると同じに見える。しかし、前者に含まれる「サ―リ」間の全音は、純正律では、より幅の広い大全音(8:9)であり、後者に含まれる「リ―グ」間は、より幅の狭い小全音(9:10)である。従って、両者の音程は異なり、後者は純正な短三度ではないのである。これは、主音と下属音「サ―マ」間を完全四度(3:4)に保つと仕方がないのであって、もし減三和音の三度音程をどちらもきちんと協和させようとするなら、サ音やパ音との協和関係を無視し、マ音を標準より高めに取らなくてはならない。古代インドの音律「ガ=グラーマ」の解釈の1つによれば、その通りの標準より高いマ音が使われ、「ヌリマ」の和音がそれ自体で純正となる。
また、減三和音が用いられるもう一つの重要な形は、短音階における「リマダ」である。この場合は、逆に、狭い「リ―マ」が下に来て、純正の「マ―ダ」が上に来る。つまり、振動数比は「135:160:192」となる。同じ減三和音といっても、純正律の中では、このように異なる音程構成の和音が存在するので要注意である。
その他の三和音
標準的な三和音の説明では挙げられない、三つの音から成るその他の和音の例を挙げる。
和音の種類 | 音程の構成 | 構成音の例 | その場合の振動数比 |
sus4 | 完全四度+長二度 | 「サマパ」 | 6:8:9 |
減三三和音 | 減三度+増三度 | 「サガパ」 | 14:16:21 |
増三三和音 | 増三度+減三度 | 「サゲパ」 | 16:21:24 |
中三和音 | 中三度+中三度 | 「サカパ」 | 40:49:60 |
最初の行は、コード表記から「サス・フォー」と呼ばれる和音で、四度+二度から成るもの。
残りは、7リミットの純正律に基づいて、減三度・増三度・中三度(※短三度と長三度の中間にあたる中立音程)を組み合わせたものである。
三和音の表記法の例
三和音の種類をもし記号的に書くならば、次のような方式を提案できる。
(1) 根音の音度名を、通常の移動サ書込用音度名記号で書く。
(2) (1)の右下に、三和音の種類を表す記号を、添え字として書く。
・長三和音 → "va"に相当する記号
・短三和音 → "ya"に相当する記号
・増三和音 → "vi"に相当する記号
・減三和音 → "yo"に相当する記号
・sus4 → "@e"に相当する記号
・減三三和音 → "@a"に相当する記号
・増三三和音 → "aya"に相当する記号
・中三和音 → "la"に相当する記号
(最終更新2011.6.11)
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