大歓喜トップ >> 声楽と音度名唱 >> 移動サの音名的用法
移動サの音名的用法
「音名の問題について」で述べたように、日本で、あるいは世界で普及している音名には根深い問題があり、その解決は容易ではない。
加えて、このサイトで述べている「拡張移動サ」音度名唱システムを実践利用していた場合、日本語のカナで区別できる一拍の音節の大部分を「音度名」として使ってしまっているため、混乱しないようにして、音名唱用の音名を音度名とは別に用意するのは殆ど不可能である。
しかし、いわゆる「12平均律」に話を限り、12個の半音(乃至は半音区切りのピッチクラス)にのみ絞るのならば、それらに1音節の固有の名前を付けることが、音名についての問題の軽減につながることは言うまでもない。ウィキペディア等で紹介されている「西塚式音名」や、その他ブログ等で各個人の工夫として掲載されている12に拡張した音名に、私としては改善となる工夫例として共感を覚える。
ちなみに西塚式音名とは、「ド(=C音)・デ・レ・リ・ミ・ファ・フィ・ソ・サ・ラ・チ・シ」の順で並ぶ12音である。
準「固定サ」
しかしそれに対し、私は、「“ドレミ”の拡張」という形を、あくまでとらない。「“ドレミ”の用法を階名以外になるべく増やさない」のが、混乱を避けるための重要なポイントだと思っているからである。
現状として、階名として使われるものが、実質、ドレミに限られているのに、音名のシステムは、当の「ドレミ」を含めて少なくとも大きく4種類が並立している。そのことが「移動ドと固定ド」の問題のそもそもの原因なのだから、用途に応じて名前やシステムを仕分けしないと解決にならないのである。混乱の種を増やしてはならない。
それならば、「拡張移動サ」の音度名の中から、12平均律に親和性のあるセットを取り出して、音名唱に使った方がましである。ということで、次の表のセットを提案する。
C | C♯/D♭ | D | D♯/E♭ | E | F | F♯/G♭ | G | G♯/A♭ | A | A♯/B♭ | B |
ハ | ジャ | サ | ラ | ガ | ヴァ | チャ | マ | タ | パ | ダ | ナ |
X | J | S | R | G | V | C(Ch) | M | T(Th) | P | D(Dh) | N |
このセットでは、12個の音名が対等であり、幹音と派生音の区別がない。母音は全て「A」で統一されていて、子音だけが違う。歌う時に、母音の違いによる音質差が発生せず、音の区切りの比較的分かりやすく音声学的に性質の散らばった子音によって音高変化を示す。
また、英字の子音1文字ずつでも、12個の書き分けをするのに足りる。但し、「C・D・G」の三つの子音字は現行の音名システム(=「英語式」及び「ドイツ語式」)と重なり、なおかつ異なる音を表すので、注意が必要である。混乱しそうな環境下では、略さずに「Cha・Dha・Ga」のように書くべきである。
このセットは、多音度音階用の拡張音度名を流用したもので、主音・基準音であるべき「サ」は、この場合、英語式/ドイツ語式の「D」音に固定される。それは、古典インド音楽の演奏において、「サ」は「D~E」の音域に置かれることが多く、弦楽器のシタールでは特にそうだからである。
このことにより、移動サの「ハ」音は、英語式/ドイツ語式の「C」音になっており、イロハ式の「ハ」と同じである。
音名なので、これを使うときは、原則として「サ」の位置を移動させない。また、付いている臨時記号の有無や種類に関わらず、ピアノであったら結果的に弾くことになる鍵盤の位置にある音名で呼ぶ。
均基準音や主音の音高を示す
上記のセットを用いて、均基準音や旋法の主音の音高を示すことができる。但し、それが単なる音名唱的用法ではなく、音高の基準を示しているのが分かるように、母音を変化させて読み分ける。
・音高の基準を表す場合⇒母音:アウ($AU)
C | C♯/D♭ | D | D♯/E♭ | E | F | F♯/G♭ | G | G♯/A♭ | A | A♯/B♭ | B |
ハウ | ジャウ | サウ | ラウ | ガウ | ヴァウ | チャウ | マウ | タウ | パウ | ダウ | ナウ |
¥kh$au | j$au | s$au | r$au | g$au | v$au | ch$au | m$au | #th$au | p$au | dh$au | n$au |
これらを、ヴァラヤ名や、メーラ名・メーラ記号、ラーガ名などと組み合わせて用い、音階や旋法の高低位置を表す。
四分音への拡張とオクターヴ表示
物理式音名 | 拡張移動サ式四分音音名 | 略号 | 振動数[Hz] |
c2 | マディヤ・ハウ (madhya ¥kh$au) | X0 | 523.251 |
マディヤ・ギャウ (madhya j%n$au) | Jn0 | 508.355 | |
b1 | マディヤ・ナウ (madhya n$au) | N0 | 493.883 |
マディヤ・ザウ (madhya z$au) | Z0 | 479.823 | |
a#1 | マディヤ・ダウ (madhya dh$au) | D0 | 466.164 |
マディヤ・シャウ (madhya %s$au) | Sh0 | 452.893 | |
a1 | マディヤ・パウ (madhya p$au) | P0 | 440.000 |
マディヤ・ファウ (madhya f$au) | F0 | 427.474 | |
g#1 | マディヤ・タウ (madhya #th$au) | T0 | 415.305 |
マディヤ・リャウ (madhya ly$au) | L0 | 403.482 | |
g1 | マディヤ・マウ (madhya m$au) | M0 | 391.995 |
マディヤ・ニャウ (madhya %n$au) | Ny0 | 380.836 | |
f#1 | マディヤ・チャウ (madhya ch$au) | C0 | 369.994 |
マディヤ・カウ (madhya &k$au) | Q0 | 359.461 | |
f1 | マディヤ・ヴァウ (madhya v$au) | V0 | 349.228 |
マディヤ・ツァウ (madhya ts$au) | Ts0 | 339.286 | |
e1 | マディヤ・ガウ (madhya g$au) | G0 | 329.628 |
マディヤ・バウ (madhya bh$au) | B0 | 320.244 | |
d#1 | マディヤ・ラウ (madhya r$au) | R0 | 311.127 |
マディヤ・デャウ (madhya dy$au) | Dy0 | 302.270 | |
d1 | マディヤ・サウ (madhya s$au) | S0 | 293.665 |
エーカマンドラ・ビャウ (eka-mandra by$au) | By-1 | 285.305 | |
c#1 | エーカマンドラ・ジャウ (eka-mandra j$au) | J-1 | 277.183 |
エーカマンドラ・ヤウ (eka-mandra y$au) | Y-1 | 269.292 | |
c1 | エーカマンドラ・ハウ (eka-mandra ¥kh$au) | X-1 | 261.6256 |
拡張移動サでは、四分音単位の音程による拡張も行われているので、その音名にも、四分音刻みのものへの拡張が必要である。
それを実現し、西洋音楽のいわゆる中央のオクターヴで示したものが、左の表である。
全ての音名を対等に示すために、語頭子音(群)を24種類に増やしてあるが、そのうちの7つは最も基本の音度用子音からのものであり、5つは、多音度音階用拡張の子音、また他の5つは、四分音用の追加子音から流用されている。
残る7つの子音(群)は、全くこの音名用だけに新たに導入されたもので、By・Dy・Ts・%N・Ly・%S・J%nの7つである。これらは、音度名唱には全く用いられず、従って、-$Au以外の母音に伴われて用いられることがないため、既存の音度名と混乱しない。
また、マディヤ(madhya)とは「中央の」の意味で、オクターヴの位置(「スターイー(sth@ay@i)」と呼ぶ)を示す用語の一つである。これは本来、音度名との組み合わせで、移動的に用いられるが、ここでは、音名的固定的用法に流用したものである。
同様に、マンドラ(mandra)とは「(音について)低い」の意味で、逆にターラ(t@ara)とは「(音について)高い」の意味であり、マディヤより低い方と高い方のオクターヴをそれぞれ形容する。低い方と高い方それぞれに、複数個のオクターヴが並ぶから、中央に近い方から順に、「エーカ(eka:1)」「ドヴィ(dvi:2)」「トリ(tri:3)」「チャトゥル(catur:4)」「パンチャ(pa%nca:5)」と番号を冠する(それ以上大きな数字は、人間の耳には聞こえない超音波の音域なので使われないが、必要ならば付け加えることができる)。
スターイーの略号は、マディヤを「0」、マンドラを「-1」~「-5」、ターラを「1」~「5」として、音名表記に付記する。数字の書き方はデーヴァナーガリーの字形を用いてもよい。
なお、表の右側の列の「振動数」は、A=440Hzという国際標準に基づき、24平均律での数値を細かめに示したものであるが、実際には、基準の音高や使われる音律は多数の種類があるので、この数値から±30セント程度までの大きな誤差を含むものとして用いられる。
これらの音名は、音階の均基準音や、旋法の主音が概ねどこの音であるかを示すのに用いられる。それに加えて、基準が違う場合には、パウ=442Hz、サウ=295Hzなどというように、振動数を明記すればよい。また、音律が異なる場合には、その音律名を示した上で、そこでの移動サ音度名を用いればよい。そうすることによって、実際の音高を誤解なく伝えることができる。
(最終更新2010.8.28)