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基礎的な25の音度名

「入門的な12の音度名」に続く第二段階は、下記の表のように25個の音度名を用いるものである。主音「サ」を基点にして、ヨーロッパ近代音楽の標準的な「音程」関係を全て呼び分けることができる。

基準音 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 +8 +9 +10 +11
ネ・サ・ロ シ・ラ リ・ガ ル・ギ グ・モ ゲ・マ ミ・ポ パ・ド ピ・ダ ディ・ナ ドゥ・ニ ヌ・ソ

この表では、半音刻みのすべての欄に「異名同音」が入っている。ピアノの鍵盤では同じ場所を叩くが、主音からの音度が異なる音が、呼び分けられることになる。この区別は、音度名唱の重要な特徴の一つであり、決定的に重要である。(註1)

音度 基準音 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 +8 +9 +10 +11
ⅶ (N)                
ⅵ (Dh)               ディ ドゥ  
ⅴ (P)                  
ⅳ (M)                  
ⅲ (G)                
ⅱ (R)                
ⅰ (S)                  

この表のように、音度ごとに行を分けてみると、より分かりやすいであろう。

横の列方向が、基準音からの音程(ピッチクラス)を半音刻みで表しており、縦の行方向が、旋法の何番目の音かを表している。行は上の方が音度が大きい。

背景が緑色のマスが、主音「サ」から「完全」「短」「長」の音程にある音であり、背景が黄色のマスが、「増」「減」の音程関係にある音である。

つまり、「サ」はサに対して完全一度であるが、同様に上方に向かって、「シ」は増一度、「ガ」は減三度、「ギ」は短三度、「グ」は長三度、「ゲ」は増三度、「モ」は減四度、「マ」は完全四度、「ミ」は増四度などとなる。同様に、標準の楽典における音程表現全てに当たる、「サ」を基準にした音度を、これら単音節の25個の音度名で言い分けることができる。

従って、音節が12個だけだった入門段階と異なり、五線譜に書いてある音程表現を忠実にそのまま読んでいくことになる。

例えば、cが「サ」であったとすると、音度名が12個だけのときは、c♯もd♭も「ラ」と読むほかなかったが、25個の段階では、d♭だけを「ラ」と読み、c♯は「シ」と読んで、呼び分けるということである。そうすると、「入門的な12の音度名」では、半音階は、↑サラリギグマミパダディニヌヌニディダパミマグギリラサ、のように同じ音度名で往復していたが、25個の音度名を使うときには、↑サシリルグマミパピディドゥヌヌニディダパポマグギリラサ、のように、通常楽譜に書かれる習慣に倣って、異なる音度名で往復できることになる。

この段階での音度名の覚え方

「拡張移動サ」では、七音音階を標準とする。

ヨーロッパ及びインドの両文化圏で共通して、七音音階が標準であるなど、現在まで実際上の多数派で、そのために実用上優れていると考えられる。(註2)

その音階における旋法構成音の並びの順序を音度と呼ぶわけだが、主音をⅰ度音とした各音度を、音度名の最初の子音で表現する。

  1. (7).ⅶ度音:N(ナ行子音)
  2. (6).ⅵ度音:Dh(ダ行子音)
  3. (5).ⅴ度音:P(パ行子音)
  4. (4).ⅳ度音:M(マ行子音)
  5. (3).ⅲ度音:G(ガ行子音)
  6. (2).ⅱ度音:R(ラ行子音)
  7. (1).ⅰ度音:S(サ行子音)

いずれも日本語母語話者に言いやすく、聞き分けるにも十分にはっきりした子音である。

次に、各音度内での音位の違いを、音度名の母音で表現する。

上の表の範囲内では、以下の順序を覚えればよい。アイウエオ順の「オ」を最初に回した形である。

  • (1).O(オ)→(2).A(ア)→(3).I(イ)→(4).U(ウ)→(5).E(エ)

音位の母音の位置は、「完全」系の音度(ⅰ度・ⅳ度・ⅴ度・ⅷ度)のときには、「完全」=A(ア)である。「長短」系の音度(ⅱ度・ⅲ度・ⅵ度・ⅶ度)のときには、それらより低い「完全」系の音度(ⅰ度・ⅴ度)に半音刻みでなるべく近い音位が「完全」=A(ア)になる。

これにより、ⅰ度からⅳ度で構成されるテトラコードの音度名群と、ⅴ度からⅷ度で構成されるテトラコードの音度名群は、母音の分布が同じで子音だけが違う相似形になる。

便利な使い方として

1続きの音符で1つの音度の音と考えられる中で、音位が変わる場合には、音度を表す子音を言い直さず、最初に一つだけ発音して、あとは母音の変化だけで済ませることができる。「子音+母音(任意の個数)+母音」の組み合わせで、装飾(スライド・ポルタメント・トリルなど)の付いた音符に充てることができる。


まとめ

この「基礎的な25の音度名」は、中学・高校生などに向け、調性のある音楽を本格的に扱うのに好ましい。

12の音度名と比べて複雑にはなったが、これらを活用することによって、音度名の読み替えをせずに、短時間の部分転調を正確にやり過ごすことがより容易になる。そして、より多くの種類の旋法に自然に対応できる。

しかし、「拡張移動サ」の真骨頂は、次の「標準的な47の音度名」にある。


註1)12平均律以外の多くの音律にとっては、異名同音も実は「異音」である。さらに言えば、音名が同じであってさえ、例えばDならDの音が複数使い分けられる必要もある。異名同音を移動する音度名として歌い分けることによって、そうした音律が持つ響きの仕組みを、意識的に教育することができる。(戻る)

註2)数学的に、12個の半音の組み合わせで、最も多くの旋法を作れるのは、その中から七音を取り出す場合である。また、実際の旋法で、上昇か下降のいずれかの音型を数えた場合、五音から七音の場合が一般的である。上昇と下降で異なる音位の音を使う場合(例えば、旋律的短音階)に、それぞれの音位を別々に数えるとすると、五音から九音の旋法が一般的である。(戻る)

(最終更新 

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