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音律を表現する拡張
音楽の仕組みを考えるうえで、音律は非常に大切な要素の一つである。どのような基準・方法で、使用する音高を決め、調律するか。ただ旋律として聴いているだけでは、聞き分けられるかどうかの微妙な差が、和音になったときの響き合い方の違いになり、ひいては音楽全体の構築イメージを左右する問題になる。
ここでの考え方としては、「音律的」という言葉を、便宜的に次のように使う。即ち、旋律としても誰にでも違和感を与える違いとなる、半音の半分、概ね四分音程度までの違いのテーマを音位的と呼び、それに対して、旋律上の使用音の違いとはなりにくい、さらにその半分、概ね八分音未満の違いのテーマを音律的と呼ぶこととする。
「拡張移動サ」の体系では、音度名の付け方を、
- ・(1).「音度」の違いを、音節の頭の子音で表す。
- ・(2).「音位的」な違いを、音節の母音で表す。
そして、それに加えて、 - ・(3).「音律的」な違いを、音節の終わりの子音で表す。
という方針にしている。
実際に歌って使うのは、専ら(1).「音度」と(2).「音位的」な部分までの、「子音+母音」の音度名(註1)である。短い音符でも問題なく歌うためには、音節も短くなくてはならない。だが、音律的な違いの問題を、言葉で語るには、(3).「音律的」な違いを付加した「子音+母音+子音」の音度名を用いる。これまでに述べてきたのは、歌うための音度名の標準形であった。
それに対し、ここからは音律的な違いを表現するが、そのためには、次のような概念を導入する。
カラー(к):オクターヴを106分割した単位
カラーというのは、細かく分けた一部分を指すサンスクリットの単語で、様々な事物に対して用いられる。日本語の「度」に近いであろうか。漢訳では「分」などと意訳し、時間の単位の「分」はインドの伝統的時間表現にある「カラー」と照応するものである。また音写では「歌羅」などと書く。特には、十六分の一を表す。また、ここでの単位記号として「к」を用いる。
音程について言えば、オクターヴを七つの楽音(スヴァラ)と考えると、15 * 7 + 1 = 106 の関係である。また、基本音程を「大全音」「小全音」「半音」の3種類に設定したとき、その中間にあたる「小全音」の音程が、ちょうど16カラーである。従って、この音程幅を「カラー」という単位で表すのは、最も相応しい表現である。
ヨーロッパではオクターヴを53分割した音程をコンマと呼ぶが、カラーはその半分に当たる。中立音程のためには、コンマの半分が影響する「奇数カラー幅」の音程表現が必要であり、そのような音律の表現にはコンマ値では不十分である。
なお、音律的音程幅の学術的な表現には、オクターヴを1,200分割したセント(即ち、半音の100分の1ということ)が用いられている。1カラーは、約11.32セントである。
106のカラーを各音位に配当する
オクターヴ12半音に対して、9 * 11 + 7 = 106 の計算に基づき、主音「サ」には7кの幅、残りの11半音には各9кの幅を割り当てる(註2)。そして、それぞれの幅が奇数であるから、中央値を基準音とし、以下の表のように音節末に子音を加える。
各音律の計算式から、主音からの音程が何カラーに相当するかを算出し、音節末子音付き音度名を対応させる。
-4к | -3к | -2к | -1к | 基準音 | +1к | +2к | +3к | +4к | |
音節末子音 | - t | - n | - p | - m | - ḥ | - k | - ṅ | - ṭ | - ṇ |
前が短母音 の場合の カナ表記 |
ッㇳ | ㇴ | ッㇷ゚ | ㇺ | ッㇵ ッㇶ ッㇷ ッㇸ ッㇹ |
ッㇰ | ン | ㇻㇳ ㇼㇳ ㇽㇳ ㇾㇳ ㇿㇳ |
ㇻㇴ ㇼㇴ ㇽㇴ ㇾㇴ ㇿㇴ |
前が長母音 の場合の カナ表記 |
ーㇳ | ーㇴ | ーㇷ゚ | ーㇺ | ーㇵ ーㇶ ーㇷ ーㇸ ーㇹ |
ーㇰ | ーン | ーㇻㇳ ーㇼㇳ ーㇽㇳ ーㇾㇳ ーㇿㇳ |
ーㇻㇴ ーㇼㇴ ーㇽㇴ ーㇾㇴ ーㇿㇴ |
なお、上の表のカナ表記の行で、前が短母音とあるほうに、これまで示した47の音度名全てが相当する。母音に長母音字を使う音度名は、オクターヴ22シュルティベースの音度名(大全音と小全音を峻別する体系)で用いられるが、22シュルティベースの仕組みについては、追って説明する。
これらの音節末子音配分において、音度名「マ」と「パ」の純正音程は、いずれも基準音(- ḥ)に来るように揃う。
註1)音度名の読み替えの個所では、「子音+子音+母音」の合成音度名も歌われる。
註2)オクターヴ22シュルティの枠組みでも、同様のことを行う。即ち、20 * 5 + 2 * 3 = 106 の計算式に基づき、主音と対蹠音のシュルティに3к、残りの20シュルティに5кずつを割り当てて、音節末子音を対応させる。
(最終更新2013.11.17)